英語や日本語よりもずっとルールは少ない。
ラテン語のよみ
あの数千年前にしてヨーロッパ全域を支配していた、最古の帝国である。
ラテン語で書かれた論文や詩が現在でも数多く残っているのは、ローマ帝国の規模の大きさのおかげと言っても過言ではない。
さて、「ローマ」と言えばローマ帝国やイタリアの都市などを思い浮かべるだろうが、忘れてはならないあれもローマの名を冠している。
そう、「ローマ字」である。
ラテン語はほとんどローマ字読みと同じ感覚で読める。
もし ‘picture’ がラテン語ならば、読み方は「ピクツレ」だし、 ‘here’ は「ヘレ」である。
ただし現代の我々が使っているローマ字には、いくつか使わないアルファベットがある。
そうした数個のアルファベットの読み方さえ覚えれば、あなたはラテン語を読めるようになる。
もちろん英語みたいに例外なんてない。(ローマ帝国時代はあったかもしれないが、もちろん当時の発音なんて誰も知らない)
現代のローマ字読みとちょっと違うやつら
C
C。英語では ‘cyclone’ や ‘civil’ などのように「サ行」の発音で読むことが多いが、ラテン語は「カ行」である。
‘ca’ , ‘ci’ , ‘cu’ , ‘ce’ , ‘co’ は、それぞれ
「カ」「キ」「ク」「ケ」「コ」と読む。
ローマ帝国の政治家、 ‘Julius Caesar’ の読み方は、
英語 : 「ジュリウス・シーザー」
である。
J
Jはローマ字入力では「ジャ行」になるが、ラテン語では「ヤ行」である。「Y」と置き換えて読んでもらえばいい。(古ラテン語には「Y」がなかった。その影響で古典ラテン語にも「Y」の付く単語は少なく*1、 ‘J’ のときより母音を強めに発音する形になる)
Cの項目であった ‘Julius Caesar’ の読み方が「ユリウス・カエサル」だったのもそれが理由である。
‘ja’ , ‘ji’ , ‘ju’ , ‘je’ , ‘jo’ は、それぞれ
「ヤ」「ゐ」「ユ」「ゑ」「ヨ」と読む。
(江戸時代までは、ヤ行もちゃんと5つあった。明治時代に伊藤博文が「同じ読みの文字は撤廃してよいだろう」と提案したことが「ゐ」「ゑ」が無くなった原因である。江戸時代以前の花札や俳句などを見てみると、このような字が多用されていることが分かる)
L
ラ行。英語と同じ。
ラテン語にも ‘R’ は存在するが、発音は ‘L’ が口を縦に開いて発音するのに対し、‘R’ は口を潰し気味にして発音する。(英語の発音も、だいたい同じような違いになる)
Q
‘kw’ と置き換えられる。後には必ず ‘u’ がつく。
‘qua’ , ‘qui’ , ‘quu’ , ‘que’ , ‘quo’はそれぞれ、
「クウァ」「クウィ」「クウゥ」「クウェ」「クウォ」と読む。
英単語にも ‘Q’ が付く単語があるが、その ‘Q’ の後には高確率で ‘u’ が付く。ラテン語の名残である。
V
「ワ」行。 ‘va’ , ‘vi’ , ‘vu’ , ‘ve’ , ‘vo’はそれぞれ、
「ウァ」「ウィ」「ウ」「ウェ」「ウォ」と読む。
ちなみに、現在のラテン語の前身である古ラテン語にはvが無かった。ラテン語の ‘v’ は、 ‘u’ が変化したものである。
更にちなみに、ラテン語には ‘w’ が無い。「ダブリュー」は「ダブルユー」が訛ったものであって、出来た順番は ‘u’→‘v’→‘w’ となる。(アルファベットの順番も同じ)
x
‘ks’ と置き換えられる。(英語の使い方と変わらない)
ラテン語の母音
ラテン語には、‘a’ , ‘e’ , ‘i’ , ‘o’ , ‘u’ 以外にもいくつか母音がある。
母音の分類を覚えたところで読み方に大きな変わりはない。アクセントと音の長短が変わるだけだ。
しかし、この2つは割とラテン語の発音に重要な影響を与える。
―― 母音を覚える前に、母音に関するある概念を覚えてほしい。
それは母音の「長短」だ。
ラテン語の母音は、「長い」「短い」という二つのカテゴリーに分けられる。 'a' が「長い」なら発音は「アー」、「短い」なら「ア」である。それだけだ。
以下がラテン語の母音一覧になる。
- A, E, I, O, U
いわゆる普通の母音。読み方は右から「ア」「エ」「イ」「オ」「ウ」。
ここまでは簡単だが、音の長短の話になってくると少し面倒になる。
実は、A, E, I, O, U は(ほとんどの場合)長短の表記の区別がないのだ。
もちろん単語で長く読むと決まっているところを短く読んでしまったら間違いとなる。単語ごとに正確な発音をするには、母音の長短を区別する必要があり、それには「暗記」が必要なのだ。
(ちなみに、入門書や儀式のために使う文言のメモなどにはきちんと長短の区別が表記されている。例えば’A’ の場合、「長い」'A' はĀ、「短い」ものは'A' と表記する)
こちらは例外なくすべて「長い」母音。
一応読み方を紹介しておくと、
「アエ」「オエ」「アウ」「エウ」「ウイ」。
ちなみに、これにも厄介なポイントがあって、例えば 'deus' などは母音は ’eu’ の1つではなく’e’ と ’u’ の2つ。(後述の語尾変化を覚えれば、こちらはあまり意識することなく見分けられる)
ラテン語のアクセント
ラテン語のアクセントは、ある法則によって決まる。読みと同じで例外はない。
その法則とは、
最後から数えて2番目の母音を見る。(母音が1個しかなかったら、それがアクセントになる)
それが長い、もしくはそれ以前に母音がなかったら、そこにアクセントがある。
それが短かったら、その1つ前の母音にアクセントがある。
である。
ちなみにラテン語が基になっている英単語にもこの法則が使えることが多い。逆もしかりで、ラテン語というのはだいたい英語みたいな発音をしておけば十中八九正しい発音になる。
例
いくつか例を挙げる。 ()の中に入っている文字がアクセントになる。
- rosa (「バラ」) → 「(ロ)サ」
母音が2個しかないので、最後から数えて2番目の ’o’ の音にアクセントが付く。(ちなみに 'o' は短い母音)
- video(「見る」) → 「(ウィ)デオー」
母音は 'i' , 'e' , 'o' の3つある。(なぜ母音が ’eo’ でとならないのかは後述) 最後から2つめの母音 'e' は「短い」母音なので ’i’ がアクセントだ。
- pax(「休日」) → 「(パ)ックス」
母音が1個。これは単純だ。
- romana(「ローマの」) → 「ロ(マ)ーナ」
最後から2つめの母音の 'a' が「長い」母音であるので、「マ」にアクセントが付く。
cogito ergo sum(「我思う、故に我あり」) →
「(コ)-ギトー (エ)ルゴー (ス)ム」
'cogito' は2つめが短い母音なので1つ前の母音が、'ergo' は母音が2つしかないので最後から2つ前の母音が、'sum' は母音が1つしかないのでそれが、アクセントになる。
今日は以上!